ブックサーチ16
   
   著作権ビジネスの新たな“機会とリスク” 移行期のデジタル著作権(U)                                                                       

                       『Cyber Security Management』 61号 2004年                                                         
   

 デジタル技術に関する多様な成果によって、また、インターネットという舞台の出現によって、著作権ビジネスは新しい事業機会と新しいリスクをもつことになった。同時に、著作権ビジネスが産業政策上ゆるがせにできない価値をもつようになった。この二つの要因によって、著作権制度は急速かつ大幅に変化しつつある。この号では、これを紹介しよう。
   
1 伝統的なビジネス・モデル
 これまでのビジネス・モデルは次の前提に基づいていた。
 (1)著作物の権利者は、その著作物の生産と流通とを、排他的にコントロールすることができる。
 (2)著作物の消費者は、その著作物の消費を、家庭内においてのみおこなう。
 (3)権利者と消費者とは別人である。
 まず(2)に注目する。これは消費者にコピー生産の能力がないことを指している。そこで(3)を配慮すれば、消費者をコントロール外においても、ビジネスに影響の生じることはない。ということで、消費者を著作権法の枠外に置いた。これが「私的使用」というものを制度的に認めた理由である。
 つまり本来の著作権法は、著作者とその成果を利用する事業者に対して、双方による著作物の取引をコントロールするための制度であった。これが上記(1)の意味である。現実に、伝統的なメディア環境においては、権利者はそこを抑えれば著作物の流通をコントロールできるというボトルネックを支配することができた。たとえば本や雑誌の場合には印刷会社を、また映画の場合には現像所というボトルネックがあった。
   
2 技術的変化への対応
2.1 流通上のボトルネックの消失
 デジタル技術の発展によって、だれにとっても使い勝手がよく、だれもにも購入できる価格のコピー装置が大幅に市場に出回るようになった。その技術は多くの場合、品質の劣化なしに何回でもコピーを繰り返すことのできるものであった。この技術成果は、コピーについて正当な権利をもたない海賊的な事業者であっても、簡単に入手できた。このために、上記の流通上のボトルネックがなくなってしまった。権利者は自らの著作物の流通をコントロールすることができなくなった。
 いま、ボトルネックがなくなったといったが、それはコピー機械がゴキブリのように増殖してコピーのコントロールが難しくなったということである。そこで、コピーのコントロールだけではなく、コピーの移動についてもコントロールできるような法的な仕組みが作られた。これが公衆送信権、譲渡権、輸入権などといわれる権利である。
   
2.2 とくにネットワーク化
 著作物の移動を考えるときに、在来型−−例、本の手交−−とネットワーク型−−例、電子的テキストの送信−−とは大きく違う。本の場合には、相手に譲渡してしまえば自分の手元にはなにも残らないが、電子的テキストの場合には、送信後にも自分の手元にそのコピーが残っている。つまり、送信の場合には、
   「送信」=「譲渡」+「コピー」
になる。ネットワーク空間においては、送信のつどコピーという操作がともない、これによってコピーがカスケード的に増えてしまうことになった。
   
2.3 通信と放送
 もう一つ、送信という場合、上記では「通信」として理解したが、著作権の世界では、送信とはすでに「放送」の分野で古くからなじみのある手段であった。したがって、送信に関する著作権上の権利は、すでに放送事業者についても事細かく定められていた。そこへ後からインターネットの出現とともに通信というものが著作権法に割り込んできたことになる。もともと通信は「通信の秘密」ということがあり、メッセージの中身−−つまり著作物の姿形−−に踏み込んで規制するルールはもっていなかった。
 ところが、その放送と通信が技術的にみるとしだいに重なってきた。通信と思われていたインターネット上で放送があり、デジタル放送といわれるものの上でメッセージのやりとりができるようになった。こうなると、同じ著作物であっても、それを放送番組としてみなすのか、通信メッセージとみるのかによって、著作権上の扱いが違うということになった。
   
3 著作権制度の変化
 伝統的な制度は、家庭内の消費者は生産・流通過程とは関係なし、したがって、私的使用は権利の対象外にする、という前提のもとで作られていた。ところが、この前提が崩れ、家庭内消費者が著作物の生産や流通に関係するようになってきた。これにともなって著作権制度に手が加えられた。同時に、ビジネス・モデルも変わった。
   
3.1 録音録画補償金制度
 コピー装置の普及に対する権利者団体の苦情は、じつはアナログ技術の時代に西ドイツで始まっていた。それは磁気テープ録音装置に対するものであり、この普及が消費者による家庭内録音を増大し、レコードの売上を減らしてしまう、という訴えであった。当時の西ドイツ法には、家庭内録音は私的使用とみなされ、権利対象から外されていた。
 この訴えについては裁判が繰り替えされたが、結局、家庭内録音に対する著作権料については、その相当額を録音機器のメーカーが負担することになった。メーカーはこの機器に著作権料相当額を上乗せして消費者に販売し、その額を後に権利者団体に渡すという方法をとることにした。これを補償金制度と呼ぶ。この制度はその後、各国にも普及し、その対象も録画装置、さらには録音録画用の媒体へと拡張された。米国と日本では、課金の対象をデジタル機器とデジタル媒体にかぎっている。
 本来、著作権料は使用者が権利者に支払うものであるが、ここではメーカーが権利者に支払っている。ただし日本では、建前としては消費者に支払わせるという法律になっている。このようにして、著作権料を著作物の直接のユーザーからではなく、第三者からとるというビジネス・モデルができた。同時に、私的使用に対する権利制限は実質的に廃止された。つまり、著作権法が家庭内に進入したことになる。
   
3.2 ノーティス・アンド・テイクダウン
 インターネットの普及とともに、インターネット上に著作者の無許諾の著作物を流す侵害者が増えた。だが、このような侵害者を捕捉することは現実には不可能であった。回線のプロバイダーには「通信の秘密」を保持する義務が課せられていたからである。つまり、プロバイダーはそのユーザーによる著作権の侵害について、第三者として無関係であるという立場をとることができた。
 だが、インターネット上の著作権の侵害行為に対して、プロバイダーにも一定の義務が課せられるようになった。権利者と侵害者とのあいだの争い方について一定の条件を設け、これを充たせばプロバイダーは侵害者のアドレスを権利者に通知できるという制度が工夫された。この手順を「ノーティス・アンド・テイクダウン」という。この手順を米国では著作権法のなかに組込んだが、日本ではプロバイダー責任制限法という著作権法とは別の法律に仕立てた。この法律によって、プロバイダーは自分のユーザー間の著作権の争いにかかわることを義務づけられることになった。
   
3.3 ファイル交換
 インターネットは、もともと研究者のツールとして設計されたものであり、したがって、研究者の慣行に基づいて作られたものであった。その一つに資源の共有という慣行があり、これを可能にするようなツールが埋め込まれていた。たとえば匿名ファイル転送プロトコルなどというものがあった。
 この枠組みはインターネットの商用化のあとでもそのまま残されている。ただし、商用化のあとでは、一般のユーザーがここに参入し、資源の共有のツールを使うようになった。一般のユーザーによって資源共有の性格が大幅に変化した。それは共有の対象が自分たちの作ったものではなく、第三者の作った著作物、つまり市販の著作物であるという点にあった。
 ここにファイル交換技術というものが開発され、それが普及した。このためにインターネット上に大量の侵害著作物が流れるようになった。その量はインターネット上のトラヒックに渋滞を生じさせるほどのものとなった。
 この侵害に対しては、さまざまな対策が試みられている。まず、ユーザーを上記のノーティス・アンド・テイクダウンの手順で見つけ出して訴える方法、次に、プロバイダーを侵害の幇助をしたと争う方法、さらに、ファイル交換技術の開発者を侵害の幇助者であると決めつける方法など。これらの試みのなかで、法廷が一応認めたのは、ユーザーとフロバイダーを非とするものである。ただし、権利者の立場からいえば、ユーザーを個別に訴えるのはコストがかかる。
 ファイル交換の出現は、著作権の技術的なコントロールについても制度的なコントロールについても、急激に進化することを示したものであり、この意味では、今後の著作権管理がさらに不安定になることを予測させるものである。
   
4 ビジネス・モデルの変化
 著作権ビジネスの活性化とともに、著作権ビジネス自体の形も変わり、また、その周辺に著作権関連ビジネスも出現してきた。前者については、たとえばネットワーク上のマイクロペイメント取引が具体化し、後者については、著作権管理事業への競争導入、著作権信託事業の見直し、などが進められつつある。
   
4.1 マイクロ・ペイメント
 インターネット環境の技術的、制度的な整備とともに、ネットワーク上での電子商取引が動き始めている。その一つとして著作物の取引もおこなわれるようになった。この取引にあたり不可欠なことは、商品となる個々の著作物に著作権の管理情報を埋め込み、同時に、その著作物に権限のないものからのアクセスを拒むような技術的な措置を講じることである。これを実現したものに「デジタル権利管理」(略称,DRM )と呼ばれる技術がある。
 DRM を支えるためには、制度的な保障も必要であり、このために著作権法は、著作権管理情報の改竄などを禁止し、同時に、アクセス制御措置の無断迂回も禁止している。このような法的な手当によって、著作物に対するネットワーク上のマイクロ・ペイメントというビジネス・モデルが実用化されている。
   
4.2 著作権管理事業
 かつては著作権の管理は、法律に基づいて一元的に実施されていた。たとえば、音楽著作物については日本音楽著作権協会によって独占的に管理されていた。だが、著作権ビジネスの進展とともに、著作物の種類もその流通方式も多様化してきた。これに対応して、著作物管理に関する法律も改められ、ここにも競争原理が導入されることになった。これを規定した法律が著作権管理事業法である。この法律の施行後、著作権ビジネスは多様化しつつある。
 著作権ビジネスの活性化とともに、著作権を投資や融資の対象として扱うビジネスも出現していた。このために信託業法にも手直が検討されつつある。
   
5 ユーザー主導
 社会の成熟とともに、かつてトフラーの予言した「プロシューマー」が出現してきた。つまり、消費者でありながら、生産行為もするという人が現れ、増えてきた。くわえて、デジタル技術の発展は、低価格、使い勝手のよいコピー機械を普及させ、インターネット環境が、情報共有の慣行を世界的な規模に拡大しつつある。これらの要因が重なって、著作物の生産・流通の分野においても、既存の著作権制度にとらわれない人びとの行動が無視できないようになった。
 この例に、フリー・ソフトウェア運動があり、それを洗練させたオープンソース・プログラムの運動がある。どちらも評判の活動になったが、とくに後者は既存の企業活動に影響を及ぼすほどの普及ぶりを示している。これらの活動は、くわしい説明は省くが、現行の著作権制度の枠組みを下敷きにしている。この意味では著作権制度の鬼っ子的な変種ともいえる。
 この型の仕組みは、さらに洗練の度を強めており、たとえばクリエイティブ・コモンズという組織も試行的ではあるが、運用を開始している。
   
6 今後の見通し
 現在、先進諸国においては、国際的な市場における比較優位を保つために、知的財産強化の政策が進められつつある。日本もこの流れのなかで、著作権強化の政策を推進している。
 ただし、ここに事業機会を求める著作権ビジネスは、権利強化の制度を支持するのみではなく、さらに、それで足りないところは、契約と技術に頼って押し進めるという方策をとっている。
 にもかかわらず、いっぽうにおいて、フリー・ソフトウェア的な活動も無視できない存在に成長しつつある。こちらを支えるのは、贈与経済をよしとする巨大なプロシューマーの存在であり、巨大なコピー装置と化したインターネットである。
 近未来の著作権制度は、建前としては前者がさらに強化され、実態としては後者もさらに普及するという形で、展開されることになるだろう。

   
    名和小太郎   グーグル論(16)  
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