ブックサーチ4

   
   出版モデルの反転      
   

   
                                               『情報の私有・共有・公有』 (NTT出版 2006年 10章3節より) 
   

● 無償かつ無差別
 インターネット上の著作物の大半は無償である。なぜ無償の著作物がこうも氾濫しているのか。それは読者がロマン主義的な枠の外にはみ出し、トフラーの言う「プロシューマー」(ブロデューサー+コンシュ−マー)として活動し始めたためだろう。そのプロシューマーは著作者が読者からの評判と尊敬を求めるはずである。とすれば、研究業績にみられる特性、とくに共有性や公開性は、今日ではインターネット上の著作物にとっては普遍的にみられる、と理解してもよいだろう。したがって、前記の研究業績について示したあれこれの論点は、一般化できるはずである。
  
 学術出版においては、すでに後続者優先型の出版システムが実現していた。そこでは後続者である読者は自由に先行者の業績にアクセスできることになっていた。ここにいう「自由に」とは、すべての先行業績に「無償で」かつ「無差別に」ということを意味している。
 まず「無償に」であるが、これは著作者が出版コストの前払いモデルが受け入れられつつあることで実現している。学術出版ではなくとも、自費出版という形で広く普及しつつある。
 また、著作者が報酬を求める伝統的なモデルにあっても、図書館という仕掛けが、無償を実現している。これは著作者つまり出版者へのコストを、読者の窓口である図書館が支払っていることによって可能となっている。その図書館は公的領域にあり、公的な資金で運用されている。したがって読者は図書館という第三者をアフィリエートにして、自分の欲する業績にアクセスできる。
 アフィリエートとは、ネットワーク取引について、関連情報や広告をサービスし、その成果によって事業者側から手数料をとる仕掛けを指す。これは民間放送でなじみになっているビジネス・モデル――コストはユーザーではなく、スポンサーが負担――に近く、インターネット上にはあたりまえのこととして実行されている。
 いま、図書館は公的領域にあるといったが、欧州のいくつかの国には公貸権というシステムがあり、このシステムによって図書館の資料コストは税金などへ転嫁されている。ついでに言えば、公貸権は著作権制度の外にある。念のために言えば、この権利は著作者が図書館に対してなんらかの行為を禁止できる権利ではない。図書館に対する一種の請求権である。ここで読者にち録音録画補償金システムを思いだしてほしい(7章2節)。
 つぎは「無差別に」であるが、「無償に」が増大すれば、これが実現する。くわえて、出版社と図書館とのあいだとの「ビッグ・ディール」がこれを保証している。この契約方式のもとでは、読者は特定のジャーナルにのみ、あるいは特定の論文にのみアクセスできることではなく、たとえば、1000タイトルのジャーナルについてその創刊号以降の掲載論文のすべてにアクセスできるといったことを意味している。つまり、どの論文にアクセスするかは、後続の読者が選択する格好になっている。
  
● グーグルの実験
 2004年末、インターネット検索サービス事業者のグーグルは、大規模図書館と協力してその蔵書のをデジタル化を開始すると発表した。相手の図書館は、ハーバード、ミシガン、オックスフォード、スタンフォードの各大学図書館、それニューヨーク公共図書館である。対象は3000万部、ここには刊行中のもの、絶版のもの、公有のものが含まれるという。
 グーグルの発表は物議をかもしている。米国大学出版協会(AAUP)は、これは著作権侵害と出版市場の縮小をもたらすと抗議した。紙媒体の論文をデジタル化することが著作権侵害であるという主張である。なお、AAUP参加の出版社は570タイトルの雑誌、年間1万1000点の書籍を発行している。米国の作家ギルドは、グーグルの行為は作家の利益を損なうという訴訟を起こした。
 グーグルの計画には海外からも反応が生じた。フランスの国立図書館長は、この計画が実現するとフランスにおいてアングロサクソン的な思考方法、くわえて言語としての英語が選択されるようになる、欧州諸国は対抗して多様な文化遺産をデジタル化すべし、と警告している。2005年、この警告に答えて欧州19ヵ国の国立図書館は汎欧州のデジタル化計画をなすべしという声明を発表した。
 このように、事情は入り乱れているが、グーグルは模様をみながら、その計画を着実に進めている。2005年末には、公有になっているものから最初の1万冊を検索可能とした。
 この型の計画をもっているのはグーグルだけではない。2004年末、非営利団体のインターネット・アーカイブ(IA)が5ヵ国、11図書館の蔵書、100万冊のデジタル化を実行するは案内した。こちらは無償公開をはっきりうたっている。2005年、このIAが中心になってオープン・コンテント・アライアンス(OCA)を結成した。最初の参加者は、ヤフー、アドベ・システム、ヒューレット・パッカード、オライリー、カリフォルニア大学など。発足後、マイクロソフト、スミソニアン、150の研究図書館などが加入している。こちらは公有の資料のデジタル化を狙っている。
 ここでは古典的な出版メディアが対象となっている。もっとも古典的なメディアでも、そのビジネス・モデルの反転ができるとすれば、より新しいメディアに対しても、それは可能であろう。

   
    名和小太郎   グーグル論(4)                               トップペ−ジへ  グーグル論リストへ