ブックサーチ5

   
   ユーザー指向の著作権制度      
   

   
                                             『情報の私有・共有・公有』 (NTT出版 2006年 終章4節より) 
   

● ゼロ・ベースで考える
 さきに出版モデルの反転について触れた(11章4節)。その出版モデルとは後続者優位のものであり、ユーザーにとって望ましいものであった。同時に、それは先行者であっても、彼/彼女が尊敬と評判を求める著作者であれば、好ましいはずのものであった。この出版モデルに適合する著作権制度を提案したい。
 私はシロウトを標榜している。そのシロウトの見方とは、この制度をゼロ・ベースの枠組みのなかで組み立てることである。
   
  提案1 著作権の取得にあたっては、著作物への権利情報の付加と、その公的機関への登録を、著作者に対して義務化する。
   
 提案1の狙いは著作権制度に方式主義を持ち込むことにある。つまり以前の米国方式を復活させるものである。伝統的な型の著作者であっても、じつはなんらかの形で著作権管理団体――たとえば日本音楽著作権協会――を経由してその著作権を行使しているわけであり、その著作権管理団体に上記の手順と等価の登録をしているはずである。この意味では著作者に特段の影響を及ぼすものではない。
 この提案の意味は大きい。それはこの登録手順を踏まない著作物があればその著作物を自動的に公有することにある。著作権という権利がほしければ、権利者はこの程度の手間をかけてもよいだろう。現に特許権はそうしている。方式主義時代の米国における調査によれば、登録される著作物は生産される著作物の1/2程度であったという。どんな方法で調査したかは不明であるが。公有著作物が増えれば、著作物の有効利用は増えるはずである。
 すでに述べたように、孤児著作物は少なくない(8章2節)。提案1があれば、権利をもつ著作物についてはそのメタデータのデータベースが存在することになり、孤児著作物――権利を持ちながら権利情報のない著作物――の生じる機会はなくなる。
 提案1は、オープンソースあるいはクリエイティブ・コモンズの運動と両立するはずである。双方ともに著作物になにがしかのノーティス−−「コピー可」「商業的利用可」など−−を付ける方法である。これらのノーティスは現行の著作権制度と親和性をもっているが、この親和性を方式主義でも継承することはできるだろう。
   
  提案2 保護期間中には著作権の維持に対して登録料を徴収する。登録料の納入がなければ、その著作物を公有にする。
   
 提案2の狙いは、著作権の維持のために、年々あるいは何年かごとに登録料を徴収する仕組みを作り、その納入がなければ当の著作物を公有にしてしまうことにある。つまり、権利の維持のためにはコストがかかるようにする。著作者はその価値が劣化したと自覚したものについては、その権利の維持をあきらめるはずである。これによって保護期間内であっても、公有に移行する著作物が増える。同時に、保護期間が実質的に短縮する。この方式についてもすでに特許権制度にはある。
   
  提案3 許諾権の行使については、これができる期間を短縮し、これを越える場合の権利行使は報酬請求権にかぎる。
   
 提案3は、許諾権の行使できる期間を限定するものである。たとえば10年間にする。この期間をすぎた著作物に対しては、ユーザーは著作者になにがしかの対価を支払えば、その著作物を自由に使えるようにする。結果的に、この方式によって原著作物の継承や批判の機会は増大し、その寿命も伸びるはずである。もし原作者が尊敬と評判とを求める人であれば、これを歓迎するだろう。
   
  提案4 著作者人格権の中心に氏名表示権を置き、同一性保持権は廃止する。
   
 同一性保持権を除くことによって、原著作物の二次的著作物は大幅に増えるはずである。これは原著作物の実質的な寿命を伸ばし、その有効利用の機会をより拡げることにつながる。同時に、この措置は原著作物に対する継承と批判とを活性化させるはずである。提案4はこれを狙ったものである。
 もし、この条件のみで救済できない侵害があったとすれば、それは著作権法の外にある名誉毀損などの法律を使って訴えればよい。現に、米国ではそうしている。
   
  提案5 上流にいる権利者はすぐ下流にいる権利者にはコントロールを及ぼすことができるが、その先の下流にいる権利者にはコントロールを及ぼせないようにする。
   
 現在、一つの著作物について、権利の束(5章1節)が複雑に絡み合い、このために当の著作物の有効な利用が阻まれる機会が増えている。たとえば複製権と輸入権との衝突、あるいは放送権と送信権との衝突など。つまり、反コモンズの悲劇が出現している。提案5はこれを避けることをその狙いとしている。
   
  提案6 公正使用の条項を導入する。<br>   
 著作権の制限は著作物の継承と批判にとって不可欠の条件である。ただし現行の日本法の権利制限規定は詳しすぎる。詳しすぎれば、新しい技術やビジネスに追従できない。したがって、これを包括的な米国流の公正使用規定と入れ換える。これが提案6の狙いである。なお、日本法は実質的に米国法に近いという意見は著作権の専門家にもある。とすれば、これは実現可能であろう。
   
  提案7 録音録画補償金システムを拡張する。
   
 この制度にはユーザーの感覚に見合った仕掛けが内蔵されている。それはユーザーに著作物を無償であると意識させる、あるいは誤解させる効果をもっていることである。現実には、ユーザーから支払われる著作権料は電子機器メーカーを迂回して著作者へと届けられている。この補償金を薄く広く思い切って拡げる。これが提案7の狙いである。
 すでにドイツでは、1審レベルではあるがパソコンのプリンターにも課金すべしという法廷の判断もでている。この課金の対象をたとえばハード・ディスクやパソコンにも拡げ、さらにはハードウェアのみではなく情報処理や通信にかかわるサービスにも及ぶようにする。かつて自動車社会のためにガソリン税を設けたように、知識社会を建設するためには、このくらいのことは産業政策として考えてもよいだろう。
(中略)
   
● 予想される批判
 上記の提案は、専門家の眼からすれば児戯に等しいものだろう。論評にも値しないと無視されるかもしれない。もし、ありがたくも批判をいただけるとしたら、予想されるそれは、第1に国際条約との整合性である。
 これについては、米国に学べ、と答えておきたい。著作権制度にせよ、特許権制度にせよ、米国のそれは国際的な規範からみれば鬼っ子である。にもかかわらず、米国は国内法にわずかに手を入れたのみで、国際的なフォーラムに参入している。分野はそれるが、インターネットの秩序などは国際電気通信のそれとはまったく離れている。だが、米国はこれを通している。
 予想される第2の批判は、現行制度との調和、あるいは現行制度からの移行をどうするのか、という点にあるだろう。これに対しては、そのようなことに熟達しているのが、法学専門家ではないのか、と答えておこう。ベルヌ条約が制定されて以来、著作権システムはつねに改訂を繰り返してきた。その卓抜な手腕については、すでに3章と9章について紹介した。この手腕に私は期待したい。
   
 21世紀初頭の著作権環境について、やや身を引いて観察してみると、上記の提案1〜7は、私のようなシロウトが言わなくとも、いずれはだれかが発言するはずである。現に、知的財産推進本部があれこれと現行著作権法に注文を付けているが、その言説は私の提案と五十歩百歩といってもよいだろう。
   
● ユーザーの目標
 上記の諸提案を実行できれば、なにが実現できるのか。これを最後にまとめておきたい。
   
  目標1 著作物の氾濫のなかから、だれでも自分の好む著作物を探索し、利用できるようにする。結果として、どんな著作物であってもその寿命を延長することになる。
   
  目標2 尊敬と評判とを求める著作者は、有名無名にかかわらず、自分の継承者、批判者を見つけることができる。
   
  目標2 公有領域を拡げる。
   
  目標3 孤児の著作物の減少を図る。
   
  目標4 複雑な現行制度を身軽にして、著作物が反コモンズに組み込まれる機会を少なくする。
   
  目標5 ファイル交換、グーグルのデジタル図書館などの情報共有システムを徹底して利用できる環境を作る。
   
  目標6 只の人であるユーザーを濫りに著作権の侵害者に仕立ててしまう法的な装置を、そのユーザーの環境から外してしまう。
   
  目標7 見かけ上、ユーザーが無償で著作物を利用できる環境を設ける。これによって、只の人であるユーザーは著作権をめぐるあれこれの不定愁訴から脱することができる。
   
  目標8 ユーザーは、自分のプライバシーを保持したまま、ネットワーク上の著作物を利用できる。

   
 じつは上記の目標は、少なくとも目標1〜4は、オープン・アクセスを目指す運動家にとっては自明のことである。オープンソース、あるいはレッシグの「クリエイティブ・コモンズ」、林紘一郎の「dマーク」などがこれである。ただし、いずれも真っ向から法制度の改革に挑むのではなく、実質的にこれを実現しようという巧みな姿勢をとっている。これらの諸提案の狙いを制度の変革に頼るとすれば、という試みが前項の提案1〜6となる。
 この本の書き手に独創があるとすれば、それは目標5〜8であり、これを実現するための提案7となる。
(後略)

   
    名和小太郎   グーグル論(5)                               トップペ−ジへ  グーグル論リストへ