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   近未来の著作権像 
                                                                       

               『ディジタル著作権 二重標準の時代へ』 みすず書房 2004年 (抜粋)                                                        
   

11.2 近未来の著作権像
(前略)
  この本を終わるにあたり、私は著作権制度の次世代の姿を予想してみたい。それはつぎのような経過をとりながら分裂することになるだろう。同時に、多元化するだろう。
(中略)
   
予測(1) :著作権像の分裂。
  著作権像が三つの利益集団のべつべつの活動によってつぎの三つに分裂する。
   
  (a) 伝統型著作者による標準型著作権像。
  (b) 財産権指向型著作者による強い著作権像。
  (c) 人格権指向型著作者による弱い著作権像。
   
予測(2) :標準型著作権像のスプロール化。
  これはベルヌ条約(BC)を枠組みとする現行制度が今後も継続することを示す。この像にもとづく制度はすでに1 世紀を越える実績をもち、それなりに成熟している。成熟とは、十二分に使い込まれており、ここに既得権益をもつたくさんの集団が組み込まれていることを指す。
  この成熟の過程で、この制度は叩き大工的に保守されてきたので、その構造はスプロール化にしている。したがって、ここにこれ以上の新しい権益をつめ込める余地は少ない。この理由で、この型の著作権像は10年後もあまり変わらない形で残っているだろう。ここでは標準型の見本例は維持される。
   
予測(3) :強い著作権像の進化。
  財産権指向型著作者はここに金銭的な利益を欲しており、このために財産権のさらなる強化を願っている。そのために、つぎのような目標の実現を求めている。
   
  (a) アクセス・コントロールのさらなる強化。
  (b) 権利制限の禁止。
  (c) 人格権の抹消(11.1項)。
   
  いずれの目標もBC型の標準型見本例を越える保護水準である。ただし、(a) は「WIPO著作権条約」(WCT )に、(b) は「調和指令」に、(c) は「知的所有権の貿易的側面に関する条約」(TRIPS )とEUの「調和指令」に、すでに導入されている。財産権指向型著作者がこの枠組みを見逃すはずはなく、かれらはそのさらなる整備を求め、議会に働きかけ、その意図を実現するだろう。ここでは標準型の見本例は組み換えられる。
   
予測(4) :弱い著作権像の拡散。
  人格権指向型著作者は著作権という制度に自己発現の保証を求めており、したがって人格権の尊重(10.1項)と財産権の自由化に関心をもっている。その行動目標はつぎのようなものであろう。
   
  (a) 氏名表示権の尊重。
  (b) 同一性保持権の凍結。
  (c) 許諾権の報酬請求権への移行。
   
   (a) は自己の著作者としての名声を維持するために、また(b) と(c) は自己の著作物の 普及を図るための条件となる。つまり、どれも自己発現を支える条件となる。人格権指向 型著作者はこれらの目標を現行の標準型著作権像の枠内で慣行として実現することが可能 である。この型の著作権像が普及するかどうかは、ここへの自発的な参加者の数にかかっ ている。
(中略)
   
予測(5) :財産権と人格権の分離。
  ディジタル著作物の市場においては、財産権と人格権とは、予測(3)(4)の経過のなかで、しだいに分離する(11.1項)。現に、権利者間の取引においては人格権は事実として凍結されており、また、人格権指向型著作者のなかにおいては財産権を行使しない場合が多い。この傾向がさらに助長される。
   
予測(6) :登録の慣行化。
  強い著作権の領域にある著作物は、弱い著作権の領域にある著作物と振り分けられる。この操作は前者にのみ登録を課する手順が社会的な慣行になり、これによって慣行的な制度として成立するだろう。
(中略)
   
予測 (7):オープンソース方式のさらなる普及。
  非営利的な個人の著作者はその著作物を非登録のまま放置するはずである。この種の著作物には弱い著作権が適用されることになる。 ただし、営利的な権利者が登録せずに財産権を主張する場合もありうる。このような権利者の行動を抑止できるか否かは、かれらの顧客となるユーザーがどのように反応するかにかかっている。
  ユーザーは近い将来、権利者の行動を制約するに十分な、購買力と組織力とをもつようになるだろう。Linux の非営利的な活動は自然発生的なものであったにもかかわらず、10年もたたぬうちにすでに巨大企業のIBM 社や多くの国の政府を巻き込み、このような活動によって世界最大のソフトウェア会社であるマイクロソフトの営業活動に影響を及ぼすようになっている。
   
予測(8) :権利制限論争の発生。
  アクセス・コントロール機能はコピー・コントロール機能を含み、そのコピー・コントロール機能を無効にしてしまう(11.2項)。したがって、アクセス・コントロールの導入は、私的使用、学校における制限、図書館における制限のようなコピー・コントロールにかかわる権利制限を実質的に抑止してしまう。財産権指向型権利者はこの手法を積極的に導入するだろう。
  ただし、アクセス・コントロールは表現の自由あるいはプライヴァシ保護と衝突する可能性をもつ(11.2項)。伝統型著作者および財産権指向型著作者と新しい個人的権者とは、以上をめぐって激しい争いを続けるだろう。
   
予測(9) :紛争解決手段の多様化。
  近未来にはどんな紛争解決手段が予測されるのか。つぎの五つの型がありうる。
   
  (a) 標準的な制度においては、伝統的な法廷。
  (b) 強い制度においては、代替的紛争解決の方法。
  (c) 弱い制度においては、当事者間の慣行。
  (d) 標準的な制度と強い制度とのあいだにおいては、(a) または(b) の方法。
  (e) 弱い制度とそれ以外の制度とのあいだにおいては、方法なし。
   
  (c) については、サンクションとしてインターネット上の評判がありうる(10.3項)。(e) においては、その解決にとんでもないコストがかかるようになるだろう(9.4 項)。なぜならば、インターネット上には膨大な関係者が一株株主的に出現し、紛争を起こすものはこのような相手と交渉せざるをえなくなるからである。したがって、このような紛争は生じたとしても、少ないだろう。
   
予測(10):巨大な著作権事業者の破綻。
  このさき10年ぐらいのあいだに、巨大なデータベース権利者か電子出版社の少なくとも一つが破綻し、その膨大なディジタル著作物のサーヴィスがしばらくのあいだ中断するかもしれない。このときディジタル著作物の永久的な保存と図書館の役割について激しい論議が交わされるはずである(10.3項)。同時に、ディジタル著作物に関する納本制度、およびディジタル著作物の市場に対する独占禁止法の適用についても論議が沸騰するだろう。
(後略)

   
    名和小太郎   グーグル論(17)  
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