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  漢字パズル誌拝見 「一石二鳥」か「玩物喪志」か    

                           『朝日新聞』 1999年 6月28日夕刊
   

ワープロのとりこになるまえ、私はカナモジカイの会員だった。そのせいか、ワープロ歴二十年になるが、まだワープロを扱いかねている。カナモジカイとは「日本の生産性を高めるために漢字を廃止しよう」と主張するグループであった。
 そんな私が漢字に引かれるとはどうしたことなのか。小学生時代に、不惜身命、天壌無窮、滅私奉公、武運長久、といった四字熟語を拳拳服膺させられた。たぶん、そのせいだろう。
 だが、戦争を知らない世代の才子佳人のなかにも漢字愛好家が増えているらしい。それが証拠に、漢字パズルの雑誌というもの、人気絶頂のようだ。『漢字一番』『漢字王』『漢字王国』『漢字道』『漢字道場』など、まさに百花繚乱。
 どんなパズルがあるのか。クロスワードあり、尻取り遊びあり、ジグソー型あり、千姿万態と言ったらよいか。
 とあるクロスワードを追っていくと、「空」をキーにして「国際空港」と「空中分解」が結ばれたり、「国」をキーにして「軍事大国」と「民主国家」が重なっていたりしている。これ、絶妙の社会批判ですね。
 いっぽう、漢字尻取りパズルのほうには、「記憶容量」→「量子力学」→「学習曲線」→「線型結合」、というものもある。電子工学→物理学→心理学→数学と、多領域の専門分野をわずか一ページのなかで遍歴するわけだ。読者は学際的万能人でなければならない。
 店頭で見つけた漢字パズル誌のうちもっとも号数を重ねているのが『ナンパラDX』。全二十五問。値段は四百五十円。割り算をすると、一問あたり十八円という勘定になる。その一問を解くのにうっかりすると小半日はかかる。ご徳用という点、他ジャンルの雑誌に抜きんでている。比類を絶する。
 漢字パズル誌には広告がまったくない。このご時世に読者の購読料のみに頼れる雑誌があるとは驚き。ちなみに専門誌『しにか』の六月号は「日本の漢字を考える」特集号だが、こちらは広告ページをたっぷりと綴じこんでいる。とすると、こと漢字文化については、プロよりアマのほうが出版文化への貢献が高い。主客転倒ではないか。
 特筆大書すべきは、どの雑誌でも正解者は超豪華賞品を貰える仕掛けになっている。『ナンパラDX』を例にすると、現金三万円をはじめ、図書券、商品券、食事券、旅行券など七珍万宝を並べている。
 いったい、読者は漢字パズル誌になにを期待しているのだろう。一石二鳥ということか。それとも、玩物喪志ということなのか、な。

   
    名和小太郎   読書・出版論(11)                    トップペ−ジへ   読書・出版論リストへ  次へ  前へ